奇跡を信じて  NO8 大地の病室にて

 大地の祖母の明子が大地の病室へ入ると、明子に気付いたひとみが、
「お母さん、遅かったじゃない」
「ごめんね、でも大ニュースがあるの」と明子が大声で言ったため、
「何よ、大ニュースって? ここは病室なのにそんな大きな声で話さないで」
とひとみが少し感情的に言ったのである。
「実は、この近くで、ジャガーズの田村選手に会ったの」と明子が言った。
「ほんとなの?」とひとみが、疑わしそうな顔をして言ったため、
「ほんとよ。絶対に田村選手だよ」


明子は、ジャガーズの田村に出会った経緯を話した。
「大地、今度ね、ジャガーズの田村選手が大地のところへ会いに来てくれるよ」
と明子が言った。
「ほんとうに、タムが来てくれるの?」と大地は嬉しい顔をして言った。
「お母さん、大地にそんな嘘をついてやらないで。大地が本気にするでしょ!」
とひとみが言ったため、
「でも、田村選手は、三日間は大阪にいるので、来られるかもしれないと言ってくれたんだよ」
「そんなの社交辞令に決まっているじゃない。それにジャガーズは、明日から三日間試合があるのに来られるわけがないでしょ!」とひとみが強い口調で言った。
「田村選手は、お仕事が忙しくて来れないかもしれないけれど、大地が早く元気になるようにと言ってくれたの」とひとみが大地に言うと、
「うん、早く元気になるよ」と明るく大地は言った。
そして、大地の父親の幸雄は、
「大地が頑張れば、早く病気も治るからね。でも、早く病気を治すためには、今日からここでお泊まりをしないとだめなんだ」と言った。
 「パパもママも一緒に、お泊まりをするの?」と大地は不安そうに聞くと、
「パパとママは、一緒にお泊まりはできないの」とひとみは言った。
「お家に帰りたいよ」と大地は半泣きなった。
「大地、お友達に笑われるわよ」とひとみが言った。


その友達というのは、同じ病室にいる守という子供のことである。
守は大地と同い年で五歳だ。病気も大地と同じ白血病で、大地よりも半年早く入院しているのだ。
  
 その時、ちょうど守の見舞いに来た母親の美代子が、大地の家族に気付き、
 「こんにちは」と言った。
 「こんにちは、今日からこちらでお世話になる村山です。息子の大地です。これからもよろしくお願いします」とひとみは言った。
 「大地君ですね。息子の守です。こちらこそよろしくお願いしますね」
と美代子は言うと、
 「守、大地君と仲良くするのよ」と誠に向かって話した。
 「うん、仲良くするよ」と守は言って、大地のベッドに近づくと、
 「これ、あげるよ」と誠が、折り紙で作ったものを大地に渡した。
 「ありがとう」と大地は言うと、ひとみは守に、 
 「守君、どうもありがとう。カブト、すごく上手にできているね。今度、大地にカブトの折り方を教えてあげてね」と言った。
 「いいよ、教えてあげる」と誠は言った。


その後、大地と誠は、折り紙で遊んでいた。
そして、大地は両親に向かって、
 「パパとママが帰っても平気だよ」
   「大地は、やっぱり強い子ね」とひとみが言うと、
   「男の子だから、強いもん」と大地は、自慢げに言ったのだ。


                                                                             つづく

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