奇跡を信じて  NO11 大地との約束

6月になり、私(田村)は本拠地に戻った時、再び大地に会おうと決めていた。
前回のように、3試合目が終わった翌日に、大地が入院している病院へ向かった。
今回は、病室も覚えていたため、問題なく入ることができた。


「こんにちは!」と私は言って、大地のベッドへ向かうと、
その日は、ひとみだけが大地の見舞いへ来ていた。
二人は私の方へ振り向くと、
「あ、タムだ!」と大地は大きな声を出した後、
「田村さん....」とひとみは驚いた表情で言った。
「大地君、元気にしている? この前、手紙を送ってくれてありがとう。手紙を書かなくてごめんね。今日は、大地君に会いたかったので来たんだ。ところで、大地君の誕生日を教えてくれるかな?」と私が尋ねると、
「7月4日だよ」と大地が答えた。
「大地君、誕生日のプレゼントは、何がほしいかな?」と私が聞くと、
「田村さん、大地にプレゼントだなんて........こちらに来て頂けるだけで、大地にとって嬉しい思い出ですから、ほんとうにお気持ちだけで十分です」
とひとみが言った。
「そんなたいした物は、できませんから」
「大地君、何でもいいよ」
「何でもいいの?」と大地が聞くと、
「いいよ、何でも言ってごらん」
「欲しい物はないけど......」と大地が、少し躊躇しているようにみえた私は、
「欲しい物はないけど、何かな?」と尋ねた。
「タムのホームランが見たいの」と大地は言った。
「ホームラン?」と私が言った後、少し考えた末、
「わかったよ、大地君。がんばって1本打ってみるよ」
と私は人差し指を出すと、
「ちがうよ、ホームラン2本、打ってほしいの」と大地は、指でピースをした。
「大地、そんな事を田村選手に言わないの」とひとみが、大地に言うと、
「だって、タムは何でもいいよって.....」
「大地、いい加減にしなさい!」とひとみが、大地を叱った。
「村山さん、大地君を叱らないであげて下さい。私が言い出したことなので、全て私の責任ですから」と私がひとみに言った後、大地の方へ近づくと、
「大地君、僕もがんばってホームランを打つので、大地君も病気をやっつけるんだよ」
「うん、がんばって、病気をやっつけるよ」と大地は言ってくれた。


私は、大地に再び会う約束をして、病室を出た。


そして、私がタクシーを待っている時、フラッシュのようなものが、2、3回光ったような気がしたが、気のせいだと思っていた。


帰りの新幹線で、私は平田に大地とホームランの約束をしてしまったことを話した。
「外国映画の見過ぎじゃないか? 昔、ベーブルースが、ある子供とホームランの約束をしたが、1本も打てなかった。なのに、お前は二本だぞ!」と平田が言った。


                        つづく

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