奇跡を信じて  NO34 奇跡を信じて  最終章

定刻通りにパーティーは始まった。
テーブル席は全部で10席あり、大地の家族3名と、ひとみの母親の明子、そして、幸雄の弟の幸二を入れて5名のみが招待席となっていた。


大地を除く四名は、自分達が場違いな所にいるのではないかという緊張で、なかなか食事が喉に通らなかったようであった。
  
食事が終わりかけた頃、司会者は田村を壇上に呼んだ。
そして、評論家等から質問タイムがあった。


最初はごく簡単な質問で、田村も笑って答えていたのだが、最後に辛口で有名な評論家の久米が、次のような質問をしてきた。
 
「田村さん、ホームラン王、おめでとうございます。ところで、最後のあの場面でどうして敬遠のボールを打たれたのでしょうか? やはり、ホームラン王をねらいたかったからですか?」
  
田村は少し苦笑いをして、
「そうですね、それもあるかもしれません」
「普通あの場面だったら、個人的な記録よりチームのことを考えるのが当然ですよね?」
と久米が田村を責めて言った。
「確かにおっしゃる通りです」
と田村は少し辛い顔で言った。


それを聞いていた、幸雄と幸二は久米の質問に対し、怒りを感じていた。


その後、久米は続けて、
「以前、確か田村さんは病気の子供達の見舞いへ行かれていたようですが、今は、もう有名になられたようなので、行く必要はなくなりよかったですね」
と皮肉を言った。


それを聞いた幸二は、立ち上がると、
「ちょっと待って下さい。 あんたは、田村選手のことを何もわかっていないよ! 俺がまちがった記事を書いたばかりに、田村選手に迷惑をかけてしまったんだ」
と幸二は言った。
  
「どういうことか、説明をしていただけますか?」
と久米が幸二に聞いた。 


すると、田村が即座に立ち上がり、
「私が最初から説明します。実は.....今から6年前に私と妻は、旅行の帰りに追突事故に遭ってしまったのです。 その時、ちょうど妻のお腹に子どもがいました。 しかしながら、突然の事故で、子どもは亡くなってしまいました。 私は野球に打ち込んで、悲しかった事を忘れるように努力をしたのですが、プロ野球選手である私は、なかなかそのようにすることができなかったのです。 
そして、ファンの方が納得をしていただける数字を残せなかった私は今シーズンの途中で引退をしようと決めていました。 そのような時に、私はある少年に出遭うことができたのです。 その少年は病気でした。白血病だったのです。彼は病気と6ヶ月間、闘っていたのです。 私はその少年に闘うということを教えられました。そして、私は彼と夢の中で、ある約束を交わしました。 その約束とは、私がホームラン王になるということです。彼はその約束を私が守れば、病気に勝つと言ってくれたのです。みなさんは、私が見た夢なんて馬鹿げていると思われるでしょう。 しかし、私達は、ほんとうにあるところで会話をしていたのです。 みなさんに私の言ったことを理解してもらえることは、むずかしいと思います。 ただ私は奇跡が起きるということを信じていただけなのです。 そして、その彼は今日、ご家族の方と、この会場に来て頂いています」


会場が一瞬、ざわめいた。
「大地君、こちらへ来てもらえますか?」
と田村が言うと、


両親の横に座っていた大地は、
「タムが僕の名前を呼んだよ」
と幸雄に言った。
「大地、田村選手が大地に来てほしいって.....」
と幸雄が言うと、
「うん」
と大地が言って、席を立ち田村の方へ向かおうとすると、選手、関係者からは、
大きな拍手が送られた。
  
大地が田村と同じ壇上へ上がると、
「大地君、君のおかげで僕がホームラン王になれたんだよ。どうもありがとう」
と田村が言うと、
  
「ちがうよ。タムがたくさんホームランを打ってくれたから、僕が助かったんだよ。
ありがとう、タム」
と大地が言った。


涙を流している選手もいた。


そして、出席をしている全ての人から二人へ大きな祝福の拍手が送られた。



田村は、あの時、亡くなった子供の生まれ変わりだと確信していたのだ。
そして、あの子がサヨナラホームランを打たせてくれたのだと........


                            
                                                                                                              終わり

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