奇跡を信じて  NO5 大地の幼稚園

「大地君、どうしたの?大丈夫?」と園庭で一緒に遊んでいた園児の一人が聞いた。
大地は、さっきまで友達とボール遊びをしていたのに、急にしゃがみこんでしまい、鼻血を出したのだ。
「藤井先生、大地君が大変!」 もう一人の園児が、近くにいた担任の藤井を呼びに行った。
 藤井は、小走りで大地の方へ来ると、
「大地君、大丈夫?」と言うと、
「藤井先生、鼻から血が出たの」と大地は言った。
「もう大丈夫だからね」と藤井は言って、ポケットに入れていたティッシュペーパーで大地の鼻を拭いてやった。


しかし、いつもより大地の顔色が悪かったので、藤井は気にかかり、大地の手をつないで職員室へ向かった。
「大地君、ここで少し休もうか?」と言って、医務室へ入ろうとした。
「もう大丈夫だよ。みんなと遊んでくる」と言って、藤井から離れて走ろうとした時、
大地は段差のところで足を引っ掛けて転んでしまい、膝を出血してしまったのだ。


「大地君、すぐにお母さんに来てもらうからね」と藤井は言い、すぐに大地の膝を消毒した。
本来、足の擦り傷程度なら親へ連絡を入れることはしないが、今回は鼻血が出たということもあって、藤井は念のため大地の自宅へ電話を入れることにしたのだ。


「村山さんのお宅でよろしいでしょうか? こちらは緑山幼稚園、担任の藤井です。実は、先程、大地君が鼻血を出され、大地君の顔色も少し悪いようなので、少し早目に迎えに来て頂けませんか?」と藤井は言うと、
 
「わかりました。すぐに迎えにいきます」と大地の母親のひとみが言った。


今まで息子の大地が、鼻血を出したことがなかっただけに、ひとみは不安に感じた。
そして、すぐにひとみは車で10分のところにある緑山幼稚園へ向かった。
ひとみが幼稚園の前にある駐車場へ車を停めると、すぐ近くに園長を見つけたため、
「こんにちは、園長先生。いつも大地がお世話になっております。今、大地はどちらに居りますでしょうか?」とひとみが聞くと、
 
「職員室に、藤井先生とおられますよ。怪我もたいしたことがなくて安心しました」と園長が言った。
 
「すみません、ご心配をかけまして」とひとみが言って、職員室へ入った。


藤井は、すでに大地の膝に、消毒液を塗ってバンドエイドを貼ってくれていた。
 
それに気付いたひとみは、藤井に礼を言った後、
「大地、心配したじゃないの。大丈夫?」と聞いた。
「大丈夫だよ。僕、強いから泣かなかったよ」と大地は、自慢げに言った。
「ほんとに強かったよね、大地君」と藤井が言った後、「お母さん、念の為、病院へ連れて行かれた方がいいと思います」
「病院は行きたくないよ」と大地は、泣きじゃくった。
「大地の泣き虫! 大地は強い男の子でしょ」とひとみは言った。
「やっぱり強くないもん。だから、病院へ行きたくない」と大地は泣いて、ひとみに懇願したが、
「今から病院へ行ってみます」と藤井に言い、ひとみは大地の手を引っ張った。


                         つづく

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