奇跡を信じて NO18 妻との約束
私(田村)はシーズン中、自宅に帰ることができないため、2、3日に一度は、妻に電話を入れることにしている。
そして、私はいつものように妻の携帯へ電話をした(メール、LINEが苦手で)
「もしもし、俺だけど......紀子、元気にしているか?」と私が言うと、
「元気よ。いつもそんなことを聞かないのに、一体どうしたの? 何か変わったことでもあったの?」と紀子が聞いた。
「いや、特にないけど」と私は言ったが、あの話だけはしようと思った。
私が病院で出会った少年が白血病と闘っていること、そして、その少年の誕生日に、私がホームランを打つ約束をしてしまったことを話した。
「紀子、俺にホームランが打てると思うか?」と聞くと、少し間があって、
「今のあなたなら、無理かもしれない」と紀子が言った。
「やっぱりね」
「違うの、もし、あなたが今の気持ちのままだったら、打てないという意味なの」
「どういうこと?」と私が聞くと、
「今のあなたは、以前のあなたと違っている。五年前の、あの事故の時から.......もう、私には子供が産めなくことで、あなたがずっと落ち込んでいたのは分かっていた。でも、私はもっと辛かった。だから、私よりもっと強くなって欲しかった.......。あなたならできると私は信じている。あなたが高校生だった頃のことを思い出してほしいの。大地君とあなたのために、ホームランを打ってね」と紀子が言ってくれた。
「ありがとう。昔のように打って見せるよ」と私は言って電話を切った。
つづく