奇跡を信じて  NO24 夢の中で

 7月10日より、オールスターゲームが始まる。


 田村の前半の成績と、後半の人気があまり伸びなかったため、メンバーに選ばれなかった。監督推薦という話もあったが、田村は丁重に断った。


 大地の体調が急変したのは、大阪ドームへ行ってから5日後のことであった。
 高熱が続き、大地はずっと寝たきりとなってしまったのだ。


 7月16日の試合が終わり、私(田村)は宿舎のホテルへ戻り、ベッドで横たわっていた。知らないうちに、私は眠ってしまい夢を見ていた。
夢の中で、私はあの大地とキャッチボールをしていたのである。
   
「タム、誕生日のプレゼントありがとう。とても嬉しかったよ。もう1回、タムのホームランが見たいの」と大地が言った。
「分かったよ。又、ホームランを打つから応援に来てね」
「もう、応援に行けないの。もうじき、僕......死ぬの。でも怖くないよ」
「何を言っているの、大地君」
「ほんとだよ。僕がママのお腹の中にいたとき、トラックがパパの車にぶつかったの。僕は死んでしまったけど、パパとママは、大丈夫だったから嬉しかったよ。でも、ほんとは僕、死にたくない」
   
  私は、耳を疑った。まさか、六年前の事故の........
「大地君は、死なないよ! 絶対に治るから、そんなことを言ってはだめだよ」
「もう言わない。その代わり、タムにお願いがあるの」
「いいよ、何でも言ってごらん。僕ができることなら何でもいいよ」
「ほんとに?」と大地は微笑んで言うと、
「約束するよ。」
「タムが1番になってほしいの」
「1番というのは、何を1番になればいいのかな?」
「ホームランのことだよ。タムがホームランを一番多く打ってくれたら、僕はがんばって.......」
 と最後の大地の言葉が聞こえなかったため、もう一度、私が聞こうとした。


すると、大地は笑顔で私に手を振ると、だんだん私から遠ざかっていき、
しまいには私の前から消えてしまったのだ。
  
そこで、私は目が覚めた。 時計を見ると、まだ朝の3時30分であった。
 
翌朝、私は昨日の夢のことが気にかかり、大地の家へ電話を入れた。
「おはようございます。田村と申します」
「あ、田村さんですか? おはようございます」とひとみが言うと、
「朝早くからすみません。その後、大地君の様態はいかがですか?」
「実は、一昨日の夕方から高熱が続いて、今は集中治療室に入っているのです。今から主人と病院へ行くところでした。それから、遅くなりましたが、この前、大地に嬉しいプレゼントを頂き、ありがとうございました。その日が今までで、一番の想い出になりました」とひとみが辛く言ったため、
「村山さん!どうしてそんな過去形で話すのですか? 大地君は必ず元気になりますから、大地君の前で悲しい顔をしないで下さい」
 と私が言って、電話を切った。
  
 私が夢で見た大地のことは、あえて話さなかった。


                  つづく

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