奇跡を信じて  NO31 願い

「大地、大地、お願いだからもう一度目を開けて!」
とひとみが泣きながら言うと、
「大地、死ぬんじゃないぞ。パパもママも大地が死んだら許さないからな」
と幸雄が言った。


その後もずっと、ひとみは大地の手を握り続けていた。
「ひとみ、ジャガーズが優勝したよ。田村選手がサヨナラホームランを打ったみたいだ。
大地に見せてあげたかったね」
と幸雄が言うと、ひとみが、
「あなた!」と大きな声を出した。
「どうした、そんな大きな声を出して」
「大地の手が少し動いたの」
「冗談だろ?」
「冗談じゃないの。ここに来て」


幸雄は大地のところに来て、大地の手を握ると少しではあったが、大地が握り返したのだ。
「大地、大地、パパだよ。わかるか?」と幸雄が聞いた。


そして、その数分後に大地はゆっくりと目を開けたのだ。ひとみは、すぐにナースコールを押して、
「大地が目を開けました。すぐに来てください」と言った。
「パパ、どうしたの? パパとママ、どうして泣いているの?」
「なんでもないよ。すごく嬉しいことがあったから」
と幸雄が言うと、
「タムがホームランを打ったこと?」
「どうして、タムがホームランを打ったことを知っているの?」
とひとみが聞いた。
「だって、タムがホームランを打ったのを見ていたの。僕、タムと約束をしたんだよ」
と大地は、言った。


幸雄は、大地がきっと何か夢を見ていたのであろうと思ったのだが、そのことは大地には言わなかった。そして、現実と少し重なっているところがあったが、それは単なる偶然だと二人は思っていたのだ。


阿部医師と看護師が、急いで駆けつけた。そして、大地の脈拍などを測ると、
阿部は信じられないような顔をして、
「奇跡が起きました。大地君は回復されています。もう大丈夫ですよ」
と阿部は二人に伝えた。
「大地、助かって良かったね」
とひとみは涙を流して、大地を抱きしめた。
  
「ママ、嬉しいことがあったから泣いているの?」
と大地が聞いた。
「そうよ。大地が病気を退治してくれたから、嬉しかったの」
「だったら、ママ、タムに(ありがとう)って言ってね」
「どうして、タムにお礼を言うの?」
「だって、タムと約束をしたの。タムがホームランをたくさん打ったら、また会おうねと言ったんだよ」
と大地が言った。


幸雄とひとみは、大地の話をほとんど信じてはいなかったが、今までいろいろと田村にはお世話になったということもあり、明日連絡を入れることにした。


                         つづく

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